文科省、北極研究船を建造へ 基本設計費を概算要求

文部科学省は北極圏の研究体制を強化するため、海氷を破砕する能力を持ち、通年で観測できる研究船を建造する方針だ。船の基本設計の費用を2020年度予算の概算要求に盛り込んだ。北極圏の変化を観測することは温暖化の影響や対策を考える上で重要で、北極海の航路や資源への関心も世界的に高まっている。研究船を調査観測の拠点として活用し、気象や海洋のデータを集める狙いだ。

文科省は17年度から北極研究船の必要性や機能について調査検討を進めてきた。20年度の概算要求では研究船関連の費用として19年度予算比2.6倍の6億5千万円を計上し、船の基本設計に取りかかる方針だ。

20年度に基本設計が始まれば、完成は20年代後半になるとみられる。船の性能にもよるが、総費用は300億~400億円程度になるもようだ。

砕氷能力を持つ一般的な研究船には海を覆う氷に乗り上げ、重みで砕く構造がある。搭載するエンジンの馬力も大きい。

文科省は研究船の建造に加え、研究プロジェクトも拡充する方針だ。現在の2倍程度の予算を要求し、若手研究者の育成や研究環境の整備にも取り組む。20年度にはアジアで初めて北極科学大臣会合を開催し、日本の国際的地位の向上も狙う。

政府は15年に初めて北極政策を取りまとめ、「北極域研究船の検討」を盛り込んだ。その後、文科省の専門委員会などで研究船のあり方について議論を重ねた。

調査の拠点に

南極と違い北極には陸地がなく、中長期の調査観測には海上拠点となる研究船が必要だ。日本には研究船「みらい」があるが、海氷を砕きながら進む砕氷能力がない。氷が増える冬などは船で行ける地点が限られてしまい、計画通りに観測できないことがある。

北極は温暖化の影響が最も顕著に表れている地域とされ、夏の海氷減少が著しい。国連の気候変動に関する政府間パネルIPCC)の報告書によれば、最も温暖化が進んだ場合、21世紀半ばまでに9月の北極海は海氷がほとんどない状態になる可能性が高いという。

海氷の減少や分布の変化は、北半球の中緯度地域の冬に寒波をもたらす原因とされる。世界気象機関(WMO)は19年1月に北米などを襲った大寒波の原因として「北極の氷の減少が影響している」と指摘した。

気候変動を引き起こす海氷の変化を高い精度で予測するためには、氷に覆われた領域を含めて、より多くの地点で継続的に気象や海洋のデータを集める必要がある。船に砕氷能力があれば様々な地点に到達できる。現状でこうした地点を日本の研究者が調べるには外国の砕氷船に同乗しなければならないが、ほしいデータが思い通りに集まらない場合がある。

 

新造する研究船で北極圏の観測を増やせば、台風の進路予測の精度が高まるとの期待もある。海洋研究開発機構・北極域研究船準備室の赤根英介総括企画グループリーダーは「データの空白域を埋めるためには、海氷の中に入って観測できる船が必要」と期待する。

海氷減少をはじめとする北極海の気候変動は、海洋の生態系にも大きな変化をもたらしている。これまで海氷に閉ざされていた海域で夏に氷が解ければ環境は激変する。プランクトンや魚類の分布が変化し、北極海につながる太平洋や大西洋にも影響が及ぶ。海洋生態系の変化を理解するためには海氷が解ける夏場だけでなく、1年を通した調査が重要となる。

海外も関心高く

北極圏での研究成果を、資源を運ぶ貨物船などの開発に生かす狙いもある。現在、欧州や北米とアジアを結ぶ新しい北極海航路が使われるようになってきたが、氷にぶつかっても壊れない頑強さが欠かせない。北極研究船で集めたデータを企業などに提供し、主に貨物船の建造に生かす。

海氷の分布などを高精度に予測する技術の開発にも役立て、航路の利用時に使ってもらう。東京海洋大学の島田浩二教授も「気候変動などの基礎研究の成果は、北極海航路の運航などにも生かせる」と指摘する。

海外でも北極圏への関心が高い。現在、米ロのほか、中国や韓国も砕氷能力を持った研究船を北極海に展開している。中韓は2隻目の砕氷船の建造を計画中とされる。中韓は北極の生態系の研究などが研究船を出す主な狙いだとされる。

北極圏には天然ガスや石油など貴重な資源が多く地下に眠っているとされる。ロシアや米国、カナダなどの沿岸国は、調査や発掘に積極的に乗り出している。自国の領海を持たない日本は科学研究に力を入れる。

(張耀宇氏、越川智瑛氏)