欧米の大学入試改革 多様な志願者取り込む

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国立情報学研究所の船守美穂准教授によると、米国では全米共通テストの結果やエッセーの提出を必須としない大学入試が増え、ドイツでは高校卒業証明の「アビトゥア」を不問とする大学が現れるなど、多様な層を取り込むための入試改革が進んでいるという。

2020年度から日本の大学入試が変わる。大学入試センター試験が「大学入学共通テスト」に変わり、記述式問題と民間英語検定試験が導入されるが、実は入試改革は日本だけの話ではない。世界の大学も改革を進めている。

米国は「SAT」(Scholastic Assessment Test)や「ACT」(The American College Testing Program)などの全米標準テストの点数を大学入学判定の材料として用いてきた。ところが、近年になって、標準テストの点数提出を任意とする動きが出てきた。既に千以上の4年制大学が、標準テストを任意化する「テスト・オプショナル」を採用している。

この方式では、大学は任意提出された点数を参考にはするが、二段階選抜や合否判断に使わない。(1)複数回受験できる生徒に対し、受験費用が重荷となる層の生徒が不利(2)マイノリティーや親が大卒でない等、大学に縁遠い家庭の生徒は受験テクニックに触れる機会が少ない(3)標準テストの点数でなくとも高校の成績でおおむね判断できる――などが背景にある。

 

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大学院入試ではGREという数学、英語、論文などの共通試験の点数を要求するのが一般的だったが、近年では生物系のトップ大学院を中心にこれを要求しない流れが鮮明となっている。多様なバックグラウンドを持つ志願者を不利にしないためだが、GREの成績と大学院での研究能力実績に明確な相関が見られないという調査結果も影響している。英国の欧州連合離脱(ブレグジット)をもじり、「GRExit(グレグジット)」と呼ばれている。

標準テストの任意化とほぼ同様の理由で、SATやACTのエッセーを要求しない流れが、特に上位校で出てきた。MITのペレマン教授が「意味のないエッセーで高得点を得る方法」という本を出すぐらいに作文がゲーム化したことに加え、SATやACTのエッセーを受ける高校生はそれぞれ70%、50%に上るのに、エッセーを要求する大学は全米で2%程度しかないことが背景にある。ハーバード大学が昨年、エッセー取りやめを発表してから、上位校が続々と追随している。

志願者が高額の授業料を負担できるかどうかを問わずに合否判定(ニードブラインド・アドミッション)する有力私大も増えてきた。合格後に学費を負担できないと判断された場合は、大学が奨学金や授業料減免措置でカバーする制度だ。

表向きは経済状況により志願者を不利にしないためと説明しているが、裕福な学生しか入れないという社会の批判をかわす手段にもなっている。

いずれにせよ、莫大な寄付を外部から得られる大学にしかできない施策で、最近では「ブルームバーグ社」の創業者で元ニューヨーク市長のマイケル・ブルームバーグ氏が母校ジョンズホプキンズ大学に、永遠に「ニードブラインド・アドミッション」ができるようにと18億ドルを寄付して話題となった。

 

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一方、ドイツでは高校卒業証明の「アビトゥア」が大学入学の条件となっているが、これを不問とする入学枠が拡大している。まだ初年次学生の3%程度だが、アビトゥアなしで働き始めてしまった職業人に、大学への門戸を開いている。

ドイツでは小学校高学年で大学へ進学するコースとそれ以外とに選抜されてしまうため、こうした枠が用意された。この制度は、高齢化社会における生涯学習にも有用である。なおドイツは、「デュアル大学」といって、学生が大学の授業と企業における実習を半々に受け、学位を取得する制度も設けており、大学教育が職業に寄り添う制度になっている。

これらの改革はいずれも、これまで大学に入学してこなかった層を取り込む施策である。大学進学率の上昇とともに、人種や居住地域、経済水準格差による社会の構成と大学生の構成のミスマッチが批判の対象となり、従来の厳格な入学選抜基準を多様化する改革に迫られた。英ケンブリッジ大学は、生まれ育った環境が恵まれず、入学基準をクリアしなかった学生を大学に受け入れ、教育する「移行年」の制度を昨年発表した。

日本では多様化を趣旨とするAO入試や推薦入試が大学側の入学者早期囲い込みの手段となり、かつこれら学生の学業不振が散見されたことが、今回の入試改革につながった。このため全般に入試の画一化が図られているが、これは時代に逆行している。

日本の入試多様化策がうまくいかなかったのは、これまで大学に入学していた層と同じ人材プールにしか、アプローチしなかったからである。

高卒の職業人を積極的に入学させようとしただろうか? 在日外国人の子女は? 離島や辺ぴな地域の人々は?――これらの層は、たまたまその環境に生まれ育っただけで、大学進学の能力がないわけではない。大卒者がキャリアアップのために再度、大学教育を受けてもよい。それをしないのは、今さら受験勉強をする気がしないのと、魅力ある専門教育が提供されていないためだ。

今日の日本は少子高齢化の中で人手不足が言われ、大学は定員割れの危機にさらされている。大学に縁遠かった層を積極的に取り込み、適切な教育をして、社会に送り出すことが必要だろう。