ギグエコノミーの担い手たち 個人の「得意」25万件売買 震災転機、ネットがインフラ

2011年3月11日。東日本大震災が起きたこの日、ランサーズ(東京・渋谷)社長の秋好陽介(38)は神奈川県鎌倉市にオフィスを構えていた。「個人と企業をネットでつなぐ懸け橋になろう」。弟と2人で起業していたが、正直なところ、うまくいっていなかった。

そんな秋好をとりまく雰囲気が震災でかわる。働く場所が被災し、しばらくは家族と離れられないと感じた人たちが、自宅で働くすべを探すようになったのだ。働きたい個人を企業とつなぐサービスへの問い合わせが増え始めた。

会社ではなく、インターネットが働く人たちのインフラになる。震災をきっかけに事業が伸び始めたランサーズは今、登録者100万人以上、企業からの依頼額が累計2千億円を超え、ギグエコノミーで日本最大級のプラットフォームだ。

ネットを通じて単発の仕事を受発注する就労形態。いわゆる「ギグエコノミー」が日本でも活発になっている。仕掛けるのは起業家たちだ。

その一人、ココナラ(東京・品川)社長の南章行(44)も11年3月11日が忘れられない。

「生きているだけで丸もうけ。チャレンジして失敗してもいいじゃないか」。住友銀行(現三井住友銀行)や投資ファンドアドバンテッジパートナーズといった金融の世界に身を置いてきたが、震災が自分を見つめ直すきっかけになった。

ところが、当初考えたヘルスケア分野でのサービス開発はうまくいかなかった。ファンド時代には見えた「勝ち筋」が見えない。焦る南に、共同創業者の新明智(37)が声をかけた。

「個人に眠っている知識や経験を流通するサービスはどうだ?」

南の動きは速かった。数日後にはネット上で消費者100人を対象にアンケートをした。回答してくれた人の答えは見事にバラバラ。

「これだけ多種多様なニーズがあるなら、それに丸ごと応えてやろう」。こう思った南は12年にココナラを立ち上げた。「みんなの得意を売り買い」を掲げ、今では動画制作や美容相談、占いなど200以上のカテゴリーで約25万件のサービスをそろえる。

プラットフォームをより良いものに。米ウーバーテクノロジーズが手掛ける料理宅配サービス「ウーバーイーツ」の日本事業責任者、武藤友木子(45)の思いも強い。

ギグエコノミーの代名詞ともいえるウーバーイーツでは1万5千人超の配達員が定期的に働く。配達員が使うスマートフォンアプリに走行履歴を記録し、安全運転についてのセミナーを開く。

「誰にも縛られず、働きたいときに働きたいだけ働くという生き方が日本でもさらに広がるはず」。こんな確信から、武藤はウーバーに転じた。働く人が受け入れるインフラにしなければ、確信は幻となる。

ギグエコノミーの仕掛け人たちは、人々の働く希望をビジネスにかえた。埋もれた才能を掘り起こすことは企業だけでなく、人口減で停滞が予想される日本経済の活力を高めることにもつながるだろう。