EU最大の問題 移民政策 ヨーロッパ・エディター ベン・ホール

下の写真に見出しをつけたらこんな感じだろうか。「世界が(この船はどうなるのかと)心配しながらみつめるなか、船から飛び降りる移民たち」――。

 

イタリアの連立与党を構成していた極右の「同盟」が、解散総選挙の実施を求め連立政権を崩壊に導いた20日、同国のランペドゥーサ島沖にとどまることを余儀なくされていたスペインの移民救助船「オープン・アームズ」から少なくとも15人の移民が耐えきれずに海に飛び込み、泳いで上陸しようとしたのは残酷な皮肉だった。

 

 

同盟の党首でもあるサルビーニ内相は、移民救助船のイタリアへの入港を拒否し、許可なく入港した場合には最大100万ユーロ(約1億1700万円)の罰金を科すことができる法案を推進、5日に成立させていた。リビア沖で今にも転覆しそうなボートに乗っていた多数の移民を保護した非政府組織(NGO)の救助船オープン・アームズの入港も同内相は拒んだ。そのためオープン・アームズと哀れな移民たちは3週間近くにわたり、どこかの国が上陸を許可してくれるのを待ちながら沖合に足止めされていた。結局、イタリアの検察当局が入港させた。だが常に選挙演説に忙しいサルビーニ氏は、遊説先でこの措置に反対し、これ以上イタリアを「欧州の難民キャンプ」にはさせないと豪語した。

ポピュリズム大衆迎合主義)の政治指導者サルビーニ氏に命運を握られ、海上をさまよったオープン・アームズの苦境は、欧州連合EU)が今、いかに移民政策を巡って混迷しているかを浮き彫りにしている。

 8月20日、入港許可がおりず地中海で3週間さまよった移民救助船から泳いで上陸しようと海に飛び込む移民が相次いだ=ロイター

8月20日、入港許可がおりず地中海で3週間さまよった移民救助船から泳いで上陸しようと海に飛び込む移民が相次いだ=ロイター

欧州を目指す難民や移民が急増した「難民危機」から3年たつが、EUはいまだに加盟各国に共通する移民政策を確立できずにいる。現行の仕組みでは、移民の玄関口となっているギリシャ、イタリア、スペインなどに耐えがたい負担が集中し、EUは移民政策で身動きが取れなくなっている。そのため、加盟各国間の関係は悪化し、統合の土台となるはずの連帯意識も薄れている。

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、今年に入って溺死した移民は800人強に上るとみられる。欧州議会の新議長に就任したサッソリ氏は8月、海を渡って欧州に来ようとする移民を救えないのなら「EUはもはや心も、精神も失ってしまったことになる」と嘆いた。

EUは、エジプトとトルコの独裁政権リビア武装勢力に移民への対応をいわばアウトソースしている。こうした国では移民は何カ月も、場合によっては何年も劣悪な環境で不法に拘束されている。移民問題では最も重い負担を強いられているギリシャの移民キャンプでは、移民の数が収容能力を上回っており、衛生状態が悪化している。

EUは3月に「ソフィア作戦」の一環として展開していたEU海軍部隊による地中海のパトロールを打ち切った。このパトロールによって、むしろ密航業者が移民を積極的に送り出すことにつながっていると判断したためだ。以来、不法移民を欧州の港で下船させることはできないものの、そうした移民が溺死しないよう保護するのはNGOの救助船の役目になった。救助船の入港を拒もうとしているのはイタリアだけではない。マルタやフランスも拒否している。

問題の元凶は、EUの難民管理制度「ダブリン規制」だ。この規制では、難民希望者が最初に到着した欧州の国に難民申請の受け付けと管理を義務付けている。密航により欧州にやってくる移民の大半は地中海を渡ってくるため、どうしても地中海に面する南欧諸国に重い負担がかかる。ギリシャ、イタリア、スペインの3カ国の負担を減らすには、加盟各国で負担を分担するしかない。だが中・東欧諸国など多くのEU加盟国は、これまで移民の大量流入や多文化共生を経験したことがない、と受け入れを拒んでいる。

フランスとドイツ、そして現在EU議長国を務めるフィンランドはこの夏、海上で保護された移民を分担して受け入れる国のグループ結成を呼びかけたが、この3カ国以外で応じたのは5カ国にとどまった。イタリアはこの会議に見向きもせず、サルビーニ氏はとんでもない策と切り捨てた。

2014~16年の難民危機で50万人もの移民がイタリアに殺到した際、イタリアが自分たちはEUに見捨てられたと感じたのは理解できる。EUギリシャへの難民流入を阻止するためにトルコ政府から協力を取り付けたが、イタリア政府はリビアからの流入についてはほとんど自分たちで抑えなければならなかったからだ。

 

だが、そうしたイタリアへの同情は移民の流入が減るに従い薄れていった。UNHCRによると、イタリアの今年の移民受け入れ数は現時点で約4300人と、ギリシャの6分の1、スペインの4分の1にすぎない。フランスは3年前の難民危機では受け入れに及び腰だったが、昨年の受け入れ数は12万人とイタリアの2倍に上った。

UNHCRによると、今年これまでに地中海を渡って欧州に来た移民の数は4万3000人と、3年前から激減した。それでも移民問題は極めて激しい議論を呼ぶ政治問題だ。従って移民問題の解決は、新体制の欧州委員会欧州議会の最優先課題だ。恐らく移民受け入れに伴う負担を負うことに同意する国には財政面の支援を与え、同意しない国にはEU予算の配分を減らすということになるだろう。

現状を踏まえると、難民受け入れのルールとプロセスの一元化や、難民と認められなかった人や経済移民を本国に送還するもっと有効な手立てが必要だ。北アフリカ諸国に欧州の南側の国境的役割を担ってもらうのなら、それらの国が移民希望者の扱いについてきちんとしたルールを設けることが不可欠だ。

 

サルビーニ氏は反移民政策を掲げ、EUがこの問題で共通の解決策を打ち出せていないことを追い風に、国内での支持を急速に伸ばしてきた。今、そのサルビーニ氏の勢いを止めるために政敵やかつての連立相手が一致団結できなければ、ヒトラームッソリーニ以来となる極右の首脳が欧州で誕生することになる(編集注、29日に与党の五つ星運動と野党の民主党が連立政権樹立に向けて合意したことから、サルビーニ氏が首相になる可能性は低下している)。